ヤマシタトモコ著:『HER』
この作品を読んだ後、なんとも言えないような気持ちを味わった
すっきりするような、まだモヤモヤするような…
あえて言葉にするなら、好き・嫌い・共感・反発、愛憎…?
本作は6話からなる1話完結ものの作品
しかし各話の登場人物どうしはどこかで繋がりを持っていて、実は連続したストーリーになっている
そんな彼女たちやそれを取り巻く人々からなる人間関係を描いているのだが…
うーん、なんというか、良作でした笑
ヤマシタトモコ氏らしく、ふわふわしておらず、それでいてドロドロし過ぎずにさらっとまとめられている
そこが物足りないと感じる人もいるかもしれないけど、個人的にはこれぐらいの読後感がちょうどいいです
ヤマシタトモコ氏の作品のファンだけでなく、女なら(笑)読んでみてもいいのでは?と思います
※以下ネタばれあり
各エピソードの概要とか感想
case1.
井出は自分のスタイルを貫くタイプで、男に媚びた女性を嫌う
日常的に他人の恋愛観や好みに対して辛辣なコメントをしてドライに構えているが、しかし「誰からも選ばれない自分」という現実には内心複雑で…
case2.
小野房は手に職を付けキャリアも充実しているが、独り身だという自分の現状について常に不安が付き纏う
「このままひたすら働いて、いずれ一人で死ぬんじゃないか」
―そんな孤独感から既婚男性客の秋波にも翻弄されてしまう
case3.
女子高生のこずえは、普段「かわい~」「やばい」「あいつ変」などで会話が成り立つ世界で生活をしている
友人どうしの同調圧力から無理に処女を捨てようとするが、隣家の武山との交流によってそれまで抱いていた「普通」という価値観を覆され、新しい世界を知ることになる
case4.
西浦は普段から化粧っ気が無くおしゃれにも無頓着なタイプだが、反面、日常的に男性との奔放な関係を繰り返す
彼女がそのような行動を取るのは、10代の時に母親の浮気を知ってしまったというのが原因にあるのだが、しかし男は母親に復讐するための道具なのか、それとも傷を埋めるための手段なのか…
case5.
花河は男に媚び媚びの「女が嫌いな女」の典型的なタイプ
花河本人にも「女なんか嫌い」という自覚があり、彼氏の友人である優に出会った瞬間、「嫌い」「ずるい」と心の中で毒づく
しかしそれとは矛盾して、なぜか自ら「嫌い」な優に近づいていく
case6.
高子は彼氏と居酒屋での食事中に、花河と優の二人の喧嘩に遭遇する
「女って怖いと思った?」と無邪気に質問して柳井(高子の彼氏)をたじろがせる高子だが、柳井のほうは彼女のそういった言動や自分の気持ちとの温度差に普段から何かと翻弄され気味な様子
どこか見覚えのある女性たち
どのケースを読んでみても、何となく既視感を覚えさせる登場人物たち…
おそらく彼女たちの中に、自分自身や周囲の誰かに似ている部分を見つけるからだろう
共感できる所もあれば、逆に「あ~こんな女いるいる~」と反感を抱かせるような所もある
しかし現実世界では嫌悪感を抱きそうなのに、なぜかここでの登場人物たちを憎むことができない
おそらくきっとそれは、今まで女として生きて来たならば少なからず、自分の意志とは裏腹に彼女たちと同じような行動を取らざるを得なかったり、周囲の女性たちに共感や同情をしてしまった経験があるからではないだろうか
そしてcase5.の最後に作者が花河にあのセリフを言わせたのは、あーずるいな、上手いな、と思いました笑
case6.では、「女の人って好きなものが多すぎる」と、柳井が高子の自分に対する気持ちに不安になる様子が描かれている
柳井は自分の優先順位が彼女にとってあまり高くなさそうなところに、彼氏でいる自信を削がれるらしい
確かに女性は「あれもこれもそれも大事」って人が多いかな?
しかし、たとえ男女の間の気持ちに温度差があったとしても、彼女たちの仕事や趣味が充実していたとしても、この作品の人物たちに描かれているように、女性自身は男に選ばれない自分は不完全だと感じずにはいられないし、男が女の人生を形造るピースの一部であることも確かなのだ
たとえ武山のようなレズビアンにとっても、埋められないピースの一つなのだ、皮肉なことに
そして柳井は「女は醜くて、男は愚かだ」と言う
…そう、きっと、世界中でそんな男や女の人間ドラマが毎日繰り広げられ、不完全でいびつな男女を乗せて、そして今日も地球は回っているのだろう