WHITE NOTE PAD / ヤマシタトモコ著
「誰かと誰かの心と身体が入れ替わる」という話は世に多くあれど、少女と中年男性が入れ替わるという話はあまり存在しないんじゃないだろうか
少なくとも私は今回の作品が初めてだ
2人の入れ替わりの設定からして異色なのだが、しかしこの作品は単純に別の誰かの身体を体験するとか、元の身体に戻れるように模索するとか、そういったありきたりな筋書きではない
少し大げさな書き方をすると、「自分とは何なのか?」「人格と身体の関係性とは?」「人生とは何時どのようにして決定付けられていくのか?」などを考えさせられる作品だ
少女のように若い人たちよりも、ある程度人生を重ねて来た人にたちにおすすめしたい作品
あらすじ(※ネタばれあり)
都内の某所―
スタジオで雑誌の撮影をしているモデルの小田薪葉菜
そこへ出入りしている業者の木根正吾
お互いの姿を見た時、2人は驚愕した
なぜなら、2人の身体と人格は1年前に入れ替わっていたからだ
後ほど落ち合った喫茶店で正吾(元葉菜)は葉菜(元正吾)に詰め寄る
「どうして1年もっ…」
葉菜(元正吾)は連絡をしなかった理由やそれまでの経緯を軽く受け流すが、正吾(元葉菜)は動揺が収まらない様子
そして、それまで平々凡々な女子高生だった自分とは打って変わって華やかな外見になっている葉菜(元正吾)にそのことを指摘すると、葉菜(元正吾)はこう返す
「読モ だから今わたし すごくない?」と
そして「強くてニューゲーム」だと
正吾(元葉菜)は葉菜(元正吾)のそんな態度に、つい感情的になる
正吾(元葉菜)「なんで なんでおまえのほうがうまくいってるんだ」
葉菜(元正吾)「…そりゃ あんたの人生がカラッポだったからじゃないの」
そう言い放つ葉菜(元正吾)に正吾(元葉菜)は言葉を失う
しかし葉菜(元正吾)のほうも元の自分を放っておくわけにもいかず、「助け合おう」と提案し、自分の所属している雑誌の編集部の雑用係として正吾(元葉菜)を自分の側に置いておくことにする
感想(※ネタばれあり)
読み始めから正吾(元葉菜)の現状の様子が悲痛でこっちまで苦しくなる
そりゃあ17歳の女子高生がある日突然、おじさんの身体と人生を生きることになったら世界に絶望もするわな
そしてそれとは反対に、葉菜(元正吾)のほうは明らかに新しい身体を楽しんでいる様子
正吾(元葉菜)に向かって「おまえが上手くいっていないのは、おまえの人生がカラッポだったから」という主旨の発言をしているが、そりゃ、元中年男性の自分のほうが人生経験豊富なんだから自分のほうが上手くいくのは当たり前なんじゃ?と思うが…
何なんだろう、この正吾(元葉菜)を小馬鹿にした態度は
しかし葉菜(元正吾)が小馬鹿にしているのは正吾(元葉菜)に対してだけでなく、編集部の人たちからも指摘されているように、ファッション業界やそれに携わる人間たちに対してもだ
しかしそうやって斜に構えて、正吾(元葉菜)も周りの世界も見下すくせに、葉菜(元正吾)の言動もどこか矛盾している
「おまえの人生がカラッポだったから」と暴言を吐いて正吾(元葉菜)の人生を否定しつつ、「おれのほうがうまくやれる」と、自分は新しい人生に躍起になったり…
そうやって元の人生を捨て去っているかと思えば、かつての自分が密かに思いを寄せていた岡島に恋人ができているという現実に動揺を隠し切れない様子
…そうやって葉菜と正吾の2人の人生は、奪い合って、混ざり合って、進行していくのだが、
これ…2人はちゃんと元に戻れるのかな?